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抱き上げたときに ああ、大きくなっていたのだな。と言っても笑わない弟と 思っていたよりも、細く軽かった父との両方が 同じくらい、胸を掻きむしるように締め付けた。
気付けば、昇った日はまた落ちていて、広大な砂漠を夜が支配していた。 無遠慮な月に煌々と照らされ、砂を蹴り、歩を進めた。
(あの家へ帰りたい)
海の見えた、あの家へ。 キッチンが、コトコトと優しい音と匂いを立てていた、あの家へ。
(ここには雨が降らない)
砂を蹴った。
風はヒュウと、雨でないのに冷たく ふわりと父の髪を遊び、さらりと弟の髪を滑っていった。 「実は生きていたのだ」と、またどこかで聞こえた気がして頬を近づける。 もし目覚めたら、何と言おう。 風はヒュウと。 抱きかかえた脚も寄せた頬も、雨でないのに、冷たかった。
(帰ろう、) (帰ろう。)
すべてを生んで口火を切った、雨のよく降ったあの家へ。 風はヒュウと。 砂を蹴った。 冷たく、ここに雨が降ることはない。
たくさん泣かせた。
よく泣くから、 泣くなよと何度も言った弟を、最後に自分が泣かせておいて そして先に逝かせた。 生きることをしつこく教えて、 そして、先に逝かせた。
父の皺と傷はあの頃と大分変わっていた。 それで全部を覚えていて いつ背を追い抜いたのだろうと思ったけど 自分は何も知らない。 思い違いはお互い様だったけど 謝罪も、報告も、できないままで、 そして父は 何も知らない。
星も無いのに明るくて、軽い砂が風に踊る。 気付けば、昇った日はまた落ちていて、夜が辺りを支配していた。 無遠慮な月に煌々と照らされ、砂を蹴り、歩を進めた。
泣くなよと何度も言った弟を、最後に自分が泣かせたこと、 父の皺と傷と仮面。
自分の手、弟の手と父の手と 重ねたものは ひどく、重い。
(おれたちの手で) (何人が) (同じ思いを) (してきたのだろうな?)
風が鳴る。 (強くなれると思っていた。)
辺り一帯支配した夜に月を見送って それが落ちたと気付いた時に、何も残っていなかった。
冷たい風が雨のごとく
そして今、憎んだ奇跡を願っている。 (お父さん、泣くな、泣くなと、弟には、)
気付くと風が頬を伝い、色々な物が落ちていた。
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裏バンカーサバイバルの結末を見て、突発的に書きました。(って、大概いつも突発的だけど。)でもどうせまた復活す…いやいやいや。
誰もが平和を望んでいたはずなのに、ちょっとした勘違いで全てが崩れていった。
これが、この悲劇の悲劇たる所でしょう。
一番辛いのはアンチョビですよね。
実はカラスミが生きてたってのも知らないわけだし、お父さんが側にいたにも関わらず、気付かないで刺し違えてしまったわけだし。
最期に、お兄ちゃんのところへいける、と思う暇もなかっただろうし。
カラスミは、復活させるにあたって「どちらか1人だけ」と言われたら、どちらかを選ぶのでしょうか。
それともどちらも選ばないのでしょうか。
もし選ぶとしたら、どうしてもアンチョビを選択してしまうのではないかと、いらん推考もしてみたり。