目覚めたらいつもの朝でした。

 目覚めたのにいつもの朝でした。

 寒い空でした。

 


 【雪所】ゆきどころ


 

 明け方、太陽が出るか出ないかぐらいの時刻に目が覚めたのだけれども、あまりにも昨日と代わり映えがないので、「誰かに届け」と思って、それで大きく息を吸ってゆっくり吐きました。

 外はまだ、どちらかと言えば暗い方だったように感じます。

 

 ただ寒いだけの日曜は退屈。

 

 吐き出された息がぱっと白い水蒸気に見えたのをぼんやり確認し乍ら、むっくり身体を起こしました。

 どうやら今日はいつもよりよっぽど寒いらしく、何もないごちゃごちゃした部屋の中で、頬がキンキン外気の冷たさを受け取りました。

 

 いつもよりよっぽど寒いのだけれども、やっぱり今日はいつもの朝で。

 

 もう一度布団に潜り込みたいという気持ちと、まだ寝ていたいという気持ちは微かに脳内に浸透というか、ふつふつと湧き出ていたことはいたのですが、なんだか隣2つに必要以上でそれも、いかにも温かげな寝顔が幸せそうにあったのでどうも躊躇ってしまうのです。

 

 (ばかみたい)

 

 折角の日曜なんだから稼げる時にしっかり稼ぎたい気持ち、それこそ山々だったのですが微妙に、否、絶妙に新聞の休刊日と牛乳屋の休みと行きつけの授産所のおばさんの家の法事がかちあって、新しい仕事も糞もなかったのです。

 何だか無性に腹が立ったせいもあってか、珍しくというより、久しぶりに何もしたくない気分でした。

 

 (寒いしね。)

 

 いつもと違いそれなりに暇なのだけれども、やっぱり今日はいつもの朝で。

 

 その点、俺なんか生きている間に法事の席になんか座る事ってあるのかどうかもなんだか。などというかなりどうでもいい疑問符を2個3個浮かべ乍ら、枕元に置いてあった元結いを取り、身体の中で唯一異性に褒められた事のある黒い髪をてっぺんで結いました。

 昨日の夜洗髪したからか今日がまた格別に寒いからか、長い髪の毛は縛られる時、ギュッギュッと軽く、それでも湿った音を数度発しました。

 

 (…異性っつったっておちやないのおババなんだけどな。)

 

 今日は日曜。天気はまだ見てないけれど、とりあえずとても寒い。

 予定は何もなし。

 

 実を言うと退屈でした。

 退屈していました。

 

 あああ。今日はたっぷり寒いし。

 

 とっても寒くてどちらかというと暇なのに、目覚めた時からもういつもの朝で。

 明日提出の筈の全く手をつけていない宿題を目にしながら、とても退屈でした。

 

 目覚めたらいつもの朝でした。

 目覚めたのにいつもの朝でした。

 寒い空でした。

 

 (ま、退屈退屈つったって、そう言えば俺起きたのつい先刻なんだけどな)

 

 また格別寒い今日のような日でも出来そうな何か新しい事でも探そうと思って、切っ掛けとすべく昨日の事をゆっくり思いだしてみました。例えば、今日は格段寒かったので、昨日はどれくらい寒かったか。とか。

 

 そう。

 どうだろう。

 昨日もまた今日みたいに、目覚めたらいつもの朝だって。

 

 で、

 で、

 それで。

 

 自分が考え事を始めたせいでしょうか。

 特に意識もしないのに本当に。

 ほんとうにさーっと張り詰めた空気の中で、自分の息、心声すらも聞こえなくなりかけていました。

 

 (あーっ…)

 

 全てが流れ流れそうな空気の中で、聞こえるのは自分以外の声。

 二人の寝息。

 いいえ。君の顔。

 

 (そういえば)

 

 実は昨日も退屈してて、それでもしも雪が降ったなら、君の髪は奇麗だろうと赤毛の彼に言ったんだ。なぁ。

 隣の彼に。そう。

 

 はにかむように笑った顔がとても素敵に見えた事を頭の端に思いながら、その静寂と安らかな寝顔を崩してしまわないように、眠っている彼へにと思い、そっと窓を開け、漏れる光を当てました。

 

 「わ。」

 

 それで、

 それでも彼を意識した事で勝手に自然に生まれ出た一種の雰囲気それこそを、只失わないように。

 この音のない空間の間に、一言だけ自分の零した音を、十分に響かせていたいと願い乍ら。

 

 そばかすのある柔いな頬を目映い光で緩ませて、彼は目覚めて。

 5秒前まで寝ていた彼は、どんどん思った事を直に話出しました。

 

 こういう所が、羨ましい。

 

 「わぁーっ!」

 「…」

 「…びっくりしたー。」

 「あっ。…お早うきりちゃん。いい日だね。」

 「おい乱太郎、雪降ってる。」

 

 

 きりりと寒い冬の朝に、春一番は君の顔。その笑みを。

 

 こういう所が、すき。

 

 色素の薄い、赤い髪の毛の彼はつぶらな瞳で揺れるように問いました。

 きりりと寒い冬の朝の外気が、彼の一言一言でどんどん中和していっているのじゃないかと、一人でこれまたいかにも変ちくりんな思いも出来ました。

 失いたくはないと思う。いつもの朝だ。隣に君がいる普通の朝だ。

 

 「ねぇ、今日暇?」

 「うん。」「じゃぁよかったね。」「うん。」「雪好き?」「普通。」「ねぇもっと笑ってよ。」

 「ん?」

 

 よかった、

 です。と、何だか胸を張って言えるような。

 そんな感じ。なのです今は。

 どんなんだか説明できないようなこの感じが、奪われてしまわないようにと願うだけでも、君と一緒に居たい。

 居ようと思えるのでした。

 何故か。

 

 ねぇ。

 今日はかなり寒い。

 だけれども。

 

 

 「変…きりちゃん…」

 「乱太郎…が……こそ…」

 

 (まっ、いっか。)

 

 雪が降ってる日は「いい日」と君が勝手に決めました。

 

 

 目覚めたらいつもの朝でした。

 目覚めたのにいつもの朝でした。

 寒い空でした

 君がいるからいつもの朝でした。

 雪は降っていましたが、それほど寒くは有りませんでした。

 

 そんな君が、すき。

 なんだろうかな。

 

 

 そして君は雪所。

 赤茶に白はよく合いました。

 

 (行き所、とも言う。)

 

 あるとても寒い日に思ってみた事。

 

 おわり。です。

 

 

 

 


朝起きて吹雪いてると嬉しい。 JRが止まって、学校が休みになるかもしれないから。

 

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