雨がじめじめと降っている。 彼は心の中で思った。 しかし、確かにそれらしい天気なのだが、この表現は正しくない。 「じめじめ」は気象の性質を表すのに用いる語句だから、言うなれば「雨が降っていて、じめじめとした天気」辺りが正解なのだ。 彼はそのことをつい先日の国語の授業で学習済みだったが、天からとめどもなく流れ続ける雨水は微量の粘着性を感じさせ、「じめじめ降る」という形容はぴったりだと思った。 雲は雄大な空にひしめき合い、雨はその僅かな隙間からきっと溢れ出ている。 なるほど、「空」という漢字はあなかんむりなのだな。と、円い空の下で彼は妙に納得した。 もう、4月である。 はて、春雨というのはもう少し細い雨ではなかっただろうか。 ふいに彼は今日以外の4月、それも一昨年の4月を思い出し、下の階の台所へと部屋を出た。 「大河さま、」 また彼がやってくればいいと、少しだけ思う。 あの時の雨は激しかった。 暗転。 目を瞑ると、音だけが脳内に共鳴するようだった。